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リレバン機能強化を拒む地域金融機関特有の壁

リレバン機能強化は本部の担当としながらも、現場で実際に取り組んだ行職員も少なくはないはずだ。地方銀行六三行中合格者はわずか一行といっても、第二地方銀行や信用金庫には合格者がいたかもしれない。営業店レベルや行職員個人レペルではまじめにリレバン機能強化に取り組み、成果を上げたところ(行職員)もあるかもしれない。目利きを生かした融資や政府系金融機関との協業などは現場だけでは取組みづらいが、事業再生のように、目の前で苦境にあえぐ取引先を現場主導で助けようとする取組みに対する制約は比較的少なかろう。リレバン機能強化の他の取組項目に比べ、現場でも活発に取り組まれたという話を聞く。

しかしながら、現場の苦労は尽きない。地域金融機関の悲愴ともいえる使命を目の当たりにする結果となったようだ。顧客とのあいたに大きな壁が立ちはだかったのだ。「再生を要する取引先自身の危機意識が足りずに、こちらから持ちかけてもなかなか動こうとしない」といった現場の声は多かった。二〇〇四年一二月二七日に金融庁から公表された「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラムの進捗状況について(平成一五年度~一六年度上半期)」における「地域銀行における要注意先債権等の健全債権化等に向けた取組み」からもこの事実が見受けられる。

同資料の「経営改善支援の主な課題及び対応例」のなかで、「経営者の危機意識の欠如、オーナー経営者が助言に耳を貸さない等、抜本的な経営改善の必要性の意識の共行までに時間がかかる」との報告が地域金融機関側からあげられているのだ。わたしの聞くところでは、資金繰り自体が危ない時期にもかかわらず、その期間に海外旅行に出かけようとしたのんきな要再生先の経営者もいたということだ。これは取引先側によほどの問題があるのだろうと、よく話を聞くと、こうした企業は家族経営のような零細企業であることが多い。

そのような企業でもそれなりの借金をして、事業を行っているわけだ。借金の額に比べて企業経営者としての自覚が不十分なのだろう。これは地域金融機関特有の仕方がない問題とわたしは判断している。わたしは都市銀行での勤務経験があるが、都市銀行が訪問し、実態を掌握し、管理する取引先の規模は、年商でいえば最低でも約一〇億円以上といったイメージがある。ところが、地域金融機関の場合はその一〇分の一から五分の一程度の年商の取引先でも実態を掌握し、管理していることが多い。規模の小さな取引先でも丁寧な対応をするのが地域金融機関なのである。

地方銀行ではほぼ全行で成果なし

貸出金の残高や利回り、与信費用が集中改善期間においてどう変化したかをみるために、地方銀行六四行の二〇〇二年度決算(集中改善期問開始時点)と二〇〇四年度決算(集中改善期間終了時点)の数値を比較した。地方銀行を対象に、横軸に貸出金末残の伸び率をとり、縦軸に貸出金利息の伸び率をとったグラフである。菱形のマークは同期間の与信費用が減少した地方銀行を表し、正方形のマークは同期間の与信費用が増加した地方銀行を表す。なお、西日本シティ銀行は集中改善期間中の合併により生まれた銀行であり、正確なデータが捕捉しきれないため除外した。

リレバン機能強化の取組みで成果が上がっていれば、菱形マークが右上の象限にのるはずだ。しかし、該当するのは六三行中わずか四行だけである。それぞれの実績について、もう少し詳しく検証しよう。どの地域金融機関も個人ローンにも力を入れている。A、B、C、D以外の五九行は、個人ローンを含めたとしても、財務上の成果が上かっていないことになる。金融庁はリレバン機能強化の取組みについてに一定の評価をしているが、地方銀行に関してリレバン機能強化の成果をみると、合格者はわずか一行ということになる。現場でも優秀な行職員が住宅ローンセンターに業者工作要員として駆り出され、その一方でほとんどすべての営業店が住宅ローンの高い目標を設定されていたから、このような結果になるのも頷ける。

地域金融機関はこれまで間違いなく個人ローンに経営資源を集中配分してきた。しかし、リレバン機能強化の観点からは、もう少しストイックな稼ぎ方で株主満足を達成する必要がなかったか。それがこの集中改善期間だったのではなかったか。個人ローンを伸ばすだけではなく、創業間もない中小企業に対しては担保や保証に依存しない融資に取り組み貸出残高を仲ばす、業歴のある中小企業に対しては正常先・非正常先に関係なく適正プライシングを推進し、事業再生を要する中小企業に対してはランクアップに果敢に取り組み与信費用を削減する必要があったのだ。

こうしたリレバン機能強化の取組みは個人ローン推進に比べて格段にむずかしい。そのうえ、リレバン機能強化はさして業績評価の対象にもならない。だから、まずは取り組みやすい、結果の出やすいところから手をつけた。株主を満足させるための合理的な方法ともいえる。現場の最大の使命はリレバン機能強化ではなく、株主満足の達成にあったのかもしれない。金融庁から要請されたリレバン機能強化は本部担当が推進するにとどまり、現場の積極的な関与もなく、期待された結果も出なかった。これが集中改善期間における地域金融機関の偽らざる姿であろう。

リレバンは財務データに成果をもたらす

リレバン機能強化は地域金融機関の財務に影響を与える。二〇〇三年三月二七日公表の「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」に、リレバン機能強化の必要性について「中小・地域金融機関の実態はリレーションシップバンキング本来のあり方から乖離している面があり、中小・地域金融機関の経営状況を見ると、収益力の低下、財務体力の低下が著しい状況にある」との記述がある。このことは「リレバンの本来のあり方に立ち戻れば、収益力や財務体力は向上する」といっているに等しく、「リレバン機能強化は収益力や財務体力の改善をもたらすことが期待される」との解釈も昨能である。

さらにリレバン機能強化は二つの柱として、中小企業金融再生に向けた取組みと健全性確保、収益件向上等に向けた取組みを求めていたが、これらも、結果として中小企業向け融資のボリューム拡人や利回りの改善につながるものが少なくない。創業支援においては、担保や保証が不十分であっても、目利きを活用することでいままで貸せなかったところに貸せるようになる。最も層の厚い成長期・安定期企業に対しては、信用リスクに応じた金利設定を行うことで利回りの改善が期待できる。事業再生は、ランクアップを通じて貸せない先が減少することでボリューム拡大が見込まれる。

さらにDTIPファイナンスなど新しい金融手法での資金供給も可能になる。不良債権問題という視点でも、同じことがいえる。たしかに地域金融機関にとって不良債権は悩ましい問題である。秋田県や大阪府などでは企業倒産件数の事業所数に占める割合が高く、不良債権のストックそのものが減りにくいという地域特性を有する。不良債権比率を下げようがない。しかしながら、こうした地域の地域金融機関でも引当金を積み上げることで、不良債権のカバーは実質的に可能であり、どんなに厳しいマーケットにおいても、健全性の維持は可能である。

また、地域金融機関は、大予行のように不良債権をバランスシートから切り離すことは簡単にはできないが、高水準の引当金積上げを前提に、地道なランクアップに取り組むことにより、いったんは積み上げた引当金の取崩しなどでフローベースの与信費用を減少させることができるはずだ。つまり、リレバン機能強化における事業再生は、ストックである不良債権比率の推移などによる単純比較は地域特性からむずかしいが、フローである与信費用の削減によって、どの地域金融機関でも損益計算書上収益改善につながっていくと考えられる。したがって、リレバン機能強化の取組みは、貸出金の残高増や利回り改善、ケ信費用の削減による財務上の成果をもたらすといえる。

「住宅ローン」はリレバンなのか

「住宅ローンはリレバンである」という意見も多かった。たしかに住宅ローンはその商品性から回収に長期間を要する。しかし、回収に長期問を要するだけで、顧客との密接な関係が長期間継続するわけではない。一見で取引が始まった住宅ローン顧客であるサラリーマン宅に一〇年以上にわたり頻繁に訪問し、コミュニケーションをとり続けるということは希なはずだ。かつて低利の住宅ローンを推進していた某外資系金融機関から住宅ローンを借りたある顧客は、ローン実行時にその金融機関の行員から「もう二度と会うことはございませんので」といわれたそうだ。

もちろんお茶すら出されることもなく。こういった物言いが咎められるべきは当然としても、住宅ローン顧客との関係を如実に表したケースといえるのではないだろうか。事実、住宅ローンなど個人に関する取引について、リレーションシップバンキングのあり方に関するワーキンググループではいっさい議論がなされていなかった。住宅ローンはリレバンではないのだ。事業性の資金宵要が落ち込むなかで、業容維持のためになおも活況な住宅資金宵要をねらっていこうと、本部の営業推進部門あたりが住宅ローン増強の旗を掲げたことが原因なのかもしれない。そのほかにも「リレーションシップバンキングとリテールバンキングの違いがわからない」という笑えない話さえ聞こえてきた。

これらはすべて、現場に対する本部の説明不足や、本来はドラスティックに変わらなければならなかった業績評価などがそのまま放置されていたことが原因だろう。厳しい地域経済環境に加え、営業店の人員削減も行われている。忙しさは倍増しても数字(実績)は上がらないという状況に、現場はつねに焦燥感をもっている。課せられた業績目標をこなしていくことすらむずかしい状態が続いている。そんななかで、(業績評価にもさほど取り入れられていない)リレバンに取り組もう、さらにその本質について時間を割いて自主的に理解していこうという意志を現場がもつだろうか。

金融庁側は、現場の行職員が金融庁のホームページに自宅で直接アクセスし、一連の文書をダウンロードし、熟読することを求めたのかもしれない。しかし、そうはならなかったのだ。それを現場の行職員の怠慢だと断じるのであれば、現場の実情に対する金融庁の理解が足りないといえる。現場においてリレバン機能強化の本質が理解されなかった責任は現場にはない。リレバンの本質を理解しようとせず、本部主導の取組みだけでお茶を濁そうとした本部、リレバンの本質を業績評価にまできちんとブレークダウンしようとしなかった本部に責任がある。

本部の独善によるリレバン機能強化であったから、事業再生に取り組む際も、再生対象のオペレーション見直しによるキャッシュフロー改善など時間と手間のかかるものの取組みは薄くなり、再生ファンドの利用などによる財務リストラにとどまった。財務データや担保に依存した融資判断も改めなくてはならなかったものの、目先の効率性を追ったばかりに実現しなかったのではないだろうか。事業再生についての力不足は、二〇〇五年六月二九日公表の「『リレーショッシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム』に基づく取組み実績と総括的な評価について」においても利用者側から厳しく指摘されている。

地域金融機関の現場ではリレバンは機能せず

現場レベルに目を転じよう。地域金融機関の現場でリレーションシップバンキング(以下、リレバン)はどのように処されていたか。現場はリレバン機能強化に取り組んでいたか。「本質が理解されていない」という金融庁の苦言に対し、現場の諸氏はおおむね納得するのではなかろうか。二〇〇三年八月末に提出された各金融機関の「リレーションシップバンキングの機能強化計画」も本部主導で策定され、再生支援部隊立上げは審査部門、目利き能力開発は人事研修部門に任されていた。営業推進部門はビジネス・マッチング・フェアの開催などに取り組み、現場からのビジネス・マッチングに係る情報の収集に注力していた。

現場は一貫して受け身だったといえる。「忙しくてリレバン機能強化どころではなかった」というのが現場で地域金融の最前線に身を置く諸氏の本音ではなかろうか。加えて、リレバンに伴う新しい取組みに関して、事業再生やビジネス・マッチングの対象となる顧客を引き合わせるなど、本部の手伝いが発生したものの、業績評価などによる「現場に対するご褒美」は皆無か、あってもごくわずかだったようだ。事実、ビジネス・マッチングや経営コンサルティングの取組みを業績評価に反映した地域金融機関は少なかった。

多くの現場では「業績評価に加えてくれないのなら、本部からいわれたことだけをやっておけばリレバンは十分」と受け身の判断をしたはずだ。集中改善期間中、地域金融機関の現場ではリレバンの本質に関する諸説が乱れ飛んだ。圧倒的多数は「リレバンは非正常先を対象としたものである」との説だ。これは二〇〇三年度下期あたりから業績評価にランクアップ先数などが突如盛り込まれたことに起因する。「リレバン機能強化以前と以後の業績評価対象項目の差分はランクアップ先数であるから、リレバンとはランクアップの必要がある非正常先を対象としたものである」と判断されたのだろう。

「大手行に求められたものが不良債権比率の半減であり、地域金融機関はそれに大きな支障があるから、ランクアップにより不良債権の削減を行うのだ」というごく自然な解釈をしたものと思われる。しかし、リレバンは正常先に対して経営コンサルティングを行ったり、ビジネス・マッチングを行ったりすることを排除するものではない。非正常先に比し多数の正常先で収益性の改善を行わなければ、地域金融機関全体の収益性の改善は覚束ない。正常先に対しても同様のサービスを提供し、地域経済を盛り上げて、地域金融機関自らも収益性を高めていく必要がある。

中小企業金融再生に向けた取組み

二〇〇二年一〇月公表の「金融再生プログラム」において、人手行は二〇〇五年三月末までに不良債権比率を半減するという目標を設定された。地域金融機関に同様の目標を設定することは困難との意見から、不良債権比率の半減にかわるものとして、二〇〇三年三月二八日公表の「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(以下、旧アクションプログラム)に基づき、中小企業金融再生に向けた取組みや健全性確保、収益性向上等に向けた取組み(=リレーションシップバンキングの機能強化を確実に図ること)を二〇〇三年度から二〇〇五年度末までの集中改善期間中に行うことが求められていた。

そして二〇〇五年三月末日をもってこの集中改善期間は終了した。現在は二〇〇五年三月二九日公表の「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成一七~一八年度)」(以下、新アクションプログラム)に移行し、二〇〇五年度と二〇〇六年度はそれに基づいた重点強化期間と位置づけられている。大手行が二〇〇五年三月期の不良債権比率半減をみごとに達成したことは明るい話題として取り上げられ、「日本の金融は平時に戻った」といった内容の記事が新聞や雑誌をにぎわした。大手行は「リストラ・再編→バランスシート切離しによる不良債権の最終処理」という手順で苦境を乗り越えてきた。

それを受け、「大手行の問題は片付いたから次は地域金融機関だ」とばかりに、地域金融機関にも同じような再生手法を望む世論も高まりつつある。金融庁は集中改善期間における地域金融機関の動きをどうみたか。各地域金融機関から金融庁宛に提出される、リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラムの進捗状況についての二〇〇四年度下期までの報告を待つことなく、金融庁側は、二〇〇五年三月二八日公表の「『リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム』の実績等の評価等に関する議論の整理」(座長メモ)」や同月二九日公表の「『地域密着型金融の機能強化の推進に間するアクションプログラム(平成一七~一八年度)』の経緯等」で見解を述べている。

それらによると、まずは「現行アクションプログラムの策定により、中小・地域金融機関が地域において自ら果たすべき役割を再認識できた」とみているようだ。加えて「融資姿勢や支援に向けた取組み状況は改善」「地域密着型金融(リレーションシップバンキングと同義。新アクションプログラムから言い換えられている)を推進するための基本的な態勢の整備は進捗」とし、「『集中改善期間』を通じた金融機関の取組みについては一定の評価」ができるとしている。

その一方で、不十分と考えられる点として、地域密着型金融の推進について対応の遅れている金融機関の存在、財務リストラ止りの事業再生、「目利き」能力不足、融資判断における財務データや担保力への偏重があげられたうえで、「地域密着型金融の取組みが浸透しているとはいい難い」と手厳しい意見も述べられている。なかでも不十分と考えられる点の冒頭に登場する「地域密着型金融の本質が必ずしも金融機関に正しく理解されていない場合も見受けられる」という指摘は耳が痛い。「本質を理解しないままで集中改善期間を過ごしてしまった」といわれているに等しい。金融庁側の評価を一言でまとめると「前進するも途半ば」といったところだろうか。

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