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過去の蓄積を食いつぶす地域金融機関

一九九〇年代後半には資金仲介業務の基本が崩壊し、そのかわりに活路を求めたリテール戦略の個人ローンビジネスや預かり資産ビジネスも、家計の困窮化によって限界がみえてきている。現場はビジネスモデル変革どころではなく、現行のビジネスモデルにおいて未曾有の苦境に直面しているのだ。地域金融機関の財務データにも、こうした現象が垣間見えた。特に下位の地域金融機関においてである。いずれの業態も総資産はほぼ横ばいを維持している。コア業務粗利益(資金利益+役務取引等利益+その他利益-債券五勘定尻。ほぼ現場で稼ぐ利益イメージに合う)については地方銀行業界がほぼ横ばいであることに対し、第二地方銀行業界では五%程度の減少、信用金庫業界では一〇%程度の減少という結果になっている。

営業経費はどこの業界でも削減されており、地方銀行業界では五%程度の削減であるが、第二地方銀行業界と信用金庫業界はともに一一%程度の削減と、コストカットの厳しさを示している。そしてコア業務粗利益から営業経費を差し引いたコア業務純益は地方銀行業界と第二地方銀行業界で一三%前後増加しているが、信用金庫業界は一〇%程度減少している。第二地方銀行業界はコア業務粗利益が地方銀行業界より五ポイント多く減少したため、営業経費も六ポイントほど地方銀行業界より多く削減し、株主満足を達成しているのだ。

コア業務純益を増やすということは、株主や会員の満足のためには最低限必要である。コア業務粗利益を増やすか営業経費を削減することで、コア業務純益を増やすことは可能である。厳しい環境を反映して、収入であるコア業務粗利か大きく増加した業界はないため、どの業界も支出である営業経費の削減に取り組んだことになる。しかし、信用金庫業界では一一%程度の厳しい営業経費削減も及ばず、コア業務純益までもが減少してしまっている。もっとも信用金庫は株式会社でなく協同組織であり、利益追求を目的としていない。ゆえにコア業務純益が減っても仕方がないという意見もあろう。

わたしの理解では、信用金庫は「稼いだ利益を無駄遣いせずに、大事にこつこつと蓄積してきて、その結果少々苦しくても利益を上げる必要のなかった」業界である。信用金庫業界の特徴として、自己資本(会員勘定)に占める資本金(出資金)以外の利益剰余金が全般的に厚いことがあげられる。過去の利益の蓄積が利益剰余金の厚さに反映している。昔は高成長経済に恵まれたうえ、規制も多く、利益蓄積はある程度保証されていたため、問題はなかったかもしれない。しかし、二一世紀以後の環境変化を受けても「少々苦しくても利益を上げなくてもよい」といっていては、厚い利益剰余金をそのうち食いつぶしていくことになりかねない。現にコア業務純益はわずか三年のうちに一割誠になっているうえ、経費削減に努めても焼け石に水だったことからも、利益剰余金を食いつぶさない保証はない。

総資産だけは二一世紀になってからも横ばいであるが、「総資産を維持するためには利益を犠牲にすることはやむをえない」とする風潮があるのであれば、ますます危険である。質素倹約に努め利益剰余金を他業界に比べ多く積み立ててきた先達に顔向けできなくなるのではないか。何をもって地域密着というかはさておき、信用金庫の地域密着度合いはおおむね地方銀行・第二地方銀行のそれより高い。ゆえに地域経済の厳しさも他業界に比べ大きく受ける。一般的に上位業界には儲かるところだけを選んで事業展開をするという選択肢がある。ところが信用金庫業界はそうではないところも多い。マクロの経済環境の悪化からこの事実が露骨にあぶりだされたといえるだろう。